重力ピエロ / 119分


重力ピエロ

ある問題を抱えた家族の絆を、スタイリッシュな文体で軽やかに綴った伊坂幸太郎の同名ミステリーを実写映画化。連続放火事件の現場で見つける、グラフィティアートの謎を追う兄弟が、やがて家族の過去と向き合っていくさまを軽妙かつエモーショナルに描く。
主演の加瀬亮岡田将生は、伊坂ワールドを上手く演じていてとてもいい。また吉高由里子の整形したのに挙動不審な腐女子感は爆笑した。超うまい。まぁ彼女が説明の為だけに出てきているのは否めないが。そんな中でも渡部篤郎は飛び抜けて凄い。ビデオカメラを弄りながら、屈託のない表情である話をするシーンはちょっと…凄いとしか言えないな。なんつーかジョーカーだよね、ダークナイトの。しかしまーダークナイトにしては、バットマンの倫理が浅すぎる。正直、全然よく出来てるしツマラナイ映画じゃないんだけど、その肝になる部分がどうしても浅い。それは原作のダメさ。それを置いておけば、この映画は伊坂の気分をよく汲みとって作られてる。伊坂幸太郎の小説は、ミステリーにおける種や仕掛けよりも、重くなりがちなテーマを小粋な台詞で軽妙に描くことが魅力の多くをしめていて、この映画はそういった魅力を上手く演出している。大仰になりがちな伊坂の文体も上手いこと脚本に落とし込んでいて、それ程気にならない。
しかしどうしても、この作品のテーマに対して素直に頷く事が出来ない。このタイトルでもある重力っていう逃れられない世界のパーツを、嘘でも軽やかに飛ぶ事で、そういったルールとか偏見みたいな重力から逃れる事は出来るんじゃないか、っていうヒューマニズムがテーマなんだと思うんですけど。あの結論って、相手のルールとか倫理観の枠から一歩も出れて無いじゃないですか。それって、重力から逃れられてないと思うなぁ。結局お父さんのあの部分に落としこむことが目的で、あー言ったお父さんの態度や決断が、結果的にハルの元になってるんじゃないかな。と言う意味でも、家族は重力から逃れられてないと思う。