おくりびと / 130分


おくりびと

アバンタイトルに私は掴まれてしまったので、概ね高評価。死と食のベタなエピソード、セックスへの導入等、下敷きとして『お葬式』があると、より楽しめると思う。

難があるとすれば、若干脚本のバランスが悪かったように思う。前半の掴みと伏線の張り方はとても明確で良いのだが、後半最後のエピソードへ向け急激にまとめたように見え、随分映画の都合に合わせちゃったなという感が否めなく、やたらあっさりしている。チェロのシーンなど大仰なハッタリは、最初のうちにかましているので、最後に多少泣かせに走ったからって、文句言うのは映画オタクくらいなんだからシカトしてよかったのに。最後のエピソードは、銭湯のおばちゃん話が前に入るんだから、「死」じゃない方がよかったのかもなぁ。

海外から見て、嘘っぽいオリエンタリズムがマーヴェラスでアメイジングに映るのはよく分かる。しかし、日本においても本来はそういう映画だった筈で。民族的なリアリティと、現代的リアリティの齟齬は日本人であることのアドバンテージを引き起こしているだろう。死を不浄の穢れとして忌み嫌う田舎の封建的社会。納棺師という職業が、むしろ舞台装置・ガジェットでしかないのは言うまでもなく、不浄の穢れ自体がファンタジー概念。そもそも現代的リアリティを基盤に考えていたら、死についての諸問題の全てが集約されている病院死についての話が出てこなければおかしいはずだ。これを前近代的リアリティと言うべきか、ファンタジーと言うべきかで分かれる所だが、この映画が面白いのは、現代的リアリティじゃないからであることは間違いない。なんというか映画らしいのだ。

前評判なしで、ふとTVでやっていたら面白かった、以上の評価を受けたのも勿体無い。今後おっさん向けの映画は増えるかもしれないが、その中で何を描くか、何を語りえるかについて釘を刺したと言う意味でも、及第点は十分に取ったといえるんじゃないか。伊丹十三の威光を背負わされた、周防正行ならどう撮っただろう。