オールド・ボーイ / 120分


オールド・ボーイ

 主人公オ・デスは、酒癖は悪いが娘思いの、普通のサラリーマン。ある晩、彼は突然拉致されホテルの一室に監禁される。監禁部屋のTVでは、主人公の妻は殺され、主人公が容疑者になったことを告げるニュースが流れている。混乱と疑問を抱えながらも体を鍛え、脱出する為の壁を掘り進める。いよいよ後少しで脱出。となったところで、主人公はトランクにつめられ監禁部屋から開放させられる。15年もの歳月と妻を奪った犯人へのやり場のない怒り、また監禁のワケを探す為、普通の男が復讐鬼と化す。といった、見事な掴みで映画は幕を開ける。

復讐者に憐れみを』のパク・チャヌク監督による復讐三部作、二本目。本作は、カンヌでグランプリを受賞。それを後押しした審査委員長のタランティーノの作風、例えば漫画的演出や暴力描写にコメディの演出をつける作風などからインスパイアを受けた印象があるが。タランティーノの場合、パク・チャヌクに比べ、妙に洗練された印象を与える。もしかすると、井筒監督の方が近い気も。

この映画、復讐譚王道のパターンを徹底的に描きながらも、それをひっくり返す後味の悪い後半の展開が当時話題を読んだのだが。印象としては、箱の存在感も組みしセブン以降を思わせる。しかしセブンよりもショックなのは、主人公が失ったものと比べ、非対称とも思えるささいな行為が、復讐の引き金になっているという展開。ともすれば、動機づけが弱く感じることだろう。しかしこの映画以降、他人からは些細だと思われる行為でも人の恨みは何十倍にも膨れ上がり返ってくる。という話が溢れるのだから、むしろこの展開は、自己責任以前の不安な時代を切り取ったと言えるのだろう。主人公にとって些細な、既に捨てられた可能性の世界を、復讐に取り憑かれた犯人は生きている。もしかすると自分の存在も、自分の選択によって選んだ人生ではなく、誰かによって選択されなかった人生かも知れないという恐怖が纏わり付く。特に「傷ついた者に復讐は最高の薬だ。復讐は健康にいい」という台詞には意味を剥ぎとったところで戦慄を覚える。

しかし文句無しなのかと言われると、非常に微妙で。目の覚めるような暴力、フザケた演出、意味深な濡れ場など、テンションは高いままなのだが、余りにご都合主義過ぎてダレてしまう。勿論、全ては繋がっていてひとつひとつのシーンの必然性が明かされると、その手の凝りように全身の力が抜けるほど呆気にとられるのだが、主人公の絶望に共感するかと言われれば、正直感情移入までには至らなかった。その一つに、韓国映画最大の魅力とも言える顔力の問題がある。皆いい役者で、演技に文句をつける気はないのだけれど、みんな大好きソン・ガンホや、ぺ・ドゥナと比べるも無く、主人公を演ずる凶悪な三又又三ことチェ・ミンシクに、実生活と入れ替え可能な空気が感じられない。それによってもし自分だったら、と置き換えて考える怖さが感じられなかったのではないだろうか。